国際交流

アセアン+3の社会保障シンポジウム「高齢者のケアと社会」参加
(2005.9.6~8)

報告:事務局長 志藤洋子

アセアン+3の社会保障シンポジウム「高齢者のケアと社会」参加9月6日から8日までタイのバンコクで、アセアン+3(中国・韓国・日本)の社会保障担当者とNGOによる、「高齢者のケア」をテーマにしたシンポジウムが開催された。このシンポジウムは2004年12月に第1回アセアン+3社会福祉大臣会議が開催され、その場で今後の具体的な活動として高齢者シンポジウムが提案されたことを受けての開催であった。
日本からは厚生労働省の皆川尚史氏と渡辺由美子氏とともに、ILCも参加の機会を与えられた。

シンポジウムでは、基調講演に加えてテーマを絞っての各国の現状報告と、これからの課題を巡って熱心な話し合いが行われた。日本は介護保険と社会保障制度見直しに関する基本方針の説明を厚生労働省の二人が担当し、ILCは少子高齢社会におけるNGOの役割と、その将来像について意見を述べた。
皆川氏は日本の経験から高齢者のケアにとって重要なことは

  • 新たな連帯の確立
  • 学際的取り組み
  • 地方分権
  • 民間主導
  • 地域と家族を中心としたケア
  • 選択の自由
  • 公平性と効率性の追求

の7つのポイントであると解説を加えて述べた。高齢社会のフロントランナーとしての経験に基づいた発言だけに、多くの示唆に富むものとして、関心と共感を持って受け止められた。
私はILCアライアンスの設立経緯と共同研究や事業に加えて、日本独自の取り組みを紹介しながら、これからの社会においてNGOは行政の補完的な役割に留まることなく、NGOだからこそできる独自活動を摸索することが重要であるとの意見を述べた。

アセアン諸国の国力や状況には非常に大きな差があり、宗教上の理由で女性の社会進出が歓迎されない国もあるし、いまだに公衆衛生などの基盤整備に重点を置かざるを得ない国もある。ある国の男性官僚は、わが国は宗教上の教えと教育の成果により、高齢者は日常的に尊敬されているし、仮に病気になっても家族による手厚い世話を受けられるので全く問題ない、と胸を張って言い切った。
介護の負担をかかえながら、言葉にも出せず一人苦労しているであろうその国の女性への共感から、参加の女性たちはほぼ全員が思わず顔を見合わせて苦笑した。
会議最後の議長まとめで、来るべき高齢社会対応の大きなトレンドが「コミュニティケア」と、行政とNGOの「連携」であると結論づけられたことは、そのような観点からもまことに意義深く、そして同時にとても嬉しいことであった。

「Aging in Place」(住み慣れた場所で老いること)を全うするためには、地域住民相互の支えあいが必要であること、そしてそれはNGOと行政の連携によってより質の高い取り組みになるという指摘は、日本を始め各国による発表でも繰り返し述べられていた。高度成長期の日本同様、アセアン諸国でも地方から都市への人口移動に伴う急激な核家族化と、女性の社会進出などを原因とした家族介護の限界が次第に明らかになってきている。高齢者の生活を支えるにあたっては家族だけに頼らない、誰かを犠牲にしない仕組み作りが必要であることが、アジアの国々でも共通認識となり始めたことが感じられ、とても心強い思いがした。
住み慣れたこの町でこの家で一生を終えたいという希望は、ILCが日常的に行っている電話相談にも多く寄せられている。一生の締めくくりの願いとそれを支えようとする動きが、国の違いを超えて大きな潮流になっていることに、改めて感慨深いものがあった。

日本やシンガポールなど少子化が急激な勢いで進んでいる国もあるし、社会保障という概念を作り上げるところから取り組んでいる国もある。アセアン+3という枠組みの中で、日本が果たすべき役割の大きさを実感するとともに、このような場に参加できたことはこれからのILCの発展にとっても、まことに有意義なことであったと思う。

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